mir821’s diary~露語&ランニング〜

25年ぶりにロシア語を再勉強中。たまにモンゴル語&ランニング。

静かな反戦映画。

1973年に公開された旧ソ連の戦争映画。

『В бой идут одни "старики"』。

直訳すると、「戦いには『老人』だけが行く」。

 

日本で公開されたかどうかは知らないが、ググってみると、この映画の内容を紹介しているのは、ロシア・ビヨンドのみ。

そこでは、「出撃するのは爺さんだけ」となっている。

 

ただ、この映画を英語字幕版は、「老人」、「爺さん」のところを「Ages」としている。こちらのほうが内容には合っている気がする。

 

舞台は第二次世界大戦のドニエプル攻防戦のころ。ナチスドイツとの戦いでのソ連パイロットたちの物語だ。

この場合、「爺さん」っていうのは、「ベテランパイロット」の愛称なので、訳すとしたら、「古参」、「ベテラン」、「達人」、「マスターズ」、「老師範」、とか考えつくけど、どうもしっくりこない、、、。

 

youtu.be

 

作中歌の「小麦色のモルダヴィア娘」は、ロシア語学習者なら耳にしたことのあるかもしれないが、作品自体を鑑賞したことのある人は少ないはず。

ただ、ユーチューブでは複数のチャンネルでアップされていて、どれもかなりの視聴者数を獲得している。

なかには900万回以上の再生回数のチャンネルがあるほどだ。

 

この作品は、5月9日の戦勝記念日には、ロシア(および旧ソ連)の国営テレビで放映されてきた戦争映画。

 

しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、政治・経済だけでなく、文化・芸術でも、対象へのそれまでの見方が、各人の依拠する立場によって劇的に変わる事態となっているが、この作品もそうかもしれない。

 

ユーチューブで5月9日公開予定とアップされたので、その題名は知ってはいたが見たことなかったので、どんな作品かと先走って鑑賞してみた。

 

思わず、泣いた、、、。

しみじみ、泣いた。

最近、涙腺が緩んできたせいもあるかもしれないが、泣いてしまった。

 

戦争映画にありがちな激しい戦闘や凄惨な殺戮といったシーンはない。

前線の飛行中隊。

パイロットや整備士、司令官たちは気ごころ知れた仲間といった感じで、鋭利な緊張感は皆無だ。

「戦争はひとときだが音楽は永遠だ」、「生き延びよう!」

音楽好きな兵士たちは、戦いの隙間での小さなコンサートを楽しんで生きる希望を見出そうとするが、戦争はやはり悲惨な現実しかもたらさない。

結婚を約束したばかりの兵士は死んでしまい、その死を伝えようと主人公の上官が婚約者に元に向かうと、その婚約者も死んでしまっていた。

墓標の前で茫然と座り込む主人公たち。

 

といった感じのあらすじ。

 

見終わった後、戦争の無意味さを痛感した。静かな反戦映画だ。

 

ただ、この映画、2022年2月24日以前ならば(2014年かも、、)、特段の違和感もなく、きっとふつうに鑑賞して泣ける映画なはずだろうけど、ロシアのウクライナ侵攻後は、ちょっと事情が違う。

侵攻後、ロシアに対してはやはりバイアスがかかって、露語学習者の私もかなり歪んだ受け止め方しかできなくなってしまっている。

でも、それでも、この作品は、いろいろ見てきた旧ソ連・ロシアの戦争映画とは、ちょっと色合いが違うような気がした。単なるプロパガンダ映画ではない。

 

ただ、ロシア人やウクライナ人は、きっとはるかに複雑な心情で、この映画を受け止めているはずだと思う。

後半の作中歌の「Ніч яка місячна,зорная,ясеня」(なんて明るい月夜)はウクライナ民謡。

「スムグリャンカ」(注:これはロシアの歌)ほど知られてないけど、有名なウクライナ民謡で、とくにロシアのウクライナ侵攻後は、日本人もけっこう聴いたことのある人も多いだろう。

さらに、監督・主演のレオニード・ヴィコフは1928年、ドネツク生まれのウクライナ人。旧ソ連の時代にロシア連邦功労俳優のほか、ウクライナ人民俳優などの称号も得ている。

本作品の制作もウクライナのスタジオなので、現在の状況では、親プーチン派のロシア人ならば、かなり否定的な受け止め方をしてしまうんじゃないかと思ってしまう。

戦勝記念日に、この映画を見るロシア人はどんな思いをするんだろうか?